インプラント治療の豆知識 COLUMN

糖尿病・骨粗しょう症・血液サラサラ薬を使用中の方へ|手術時の注意点

糖尿病・骨粗しょう症・血液サラサラ薬を使用中の方へ|手術時の注意点

目次

持病があっても歯科手術をあきらめないために知っておきたいこと


奥歯の痛みが限界に近いのに、糖尿病や骨粗しょう症、血液をサラサラにする薬を服用していると「手術を受けて大丈夫だろうか」と不安になりますよね。ネット上には顎の骨や出血に関する情報も多く、戸惑う方も少なくありません。本記事では、薬や持病が歯科手術に及ぼす影響、自己判断による休薬で起こり得ること、内科と連携した治療の進め方を、東岡崎ジョイ歯科の取り組みを交えて整理します。


この記事の要点まとめ


  • 糖尿病・骨粗しょう症・抗血栓薬はそれぞれ術後の傷の回復や出血・感染に関わるため、事前の情報共有が重要です。
  • 服用中の薬を自己判断で中断すると血栓や血糖の急変を招く可能性があり、内科医と歯科医師の連携による管理が推奨されます。
  • 複数の持病がある場合も、対診・精密検査・感染予防対策を組み合わせることで、安全な治療計画を立てやすくなります。

目次



持病や服用中の薬が歯科手術(抜歯・インプラント)に及ぼす3つの医学的影響


抜歯やインプラントといった歯科手術は外科処置の一種であり、全身状態の影響を受けやすいといわれています。糖尿病・骨粗しょう症治療薬・抗血栓薬(血液をサラサラにする薬)はいずれも、傷の治り方や出血、感染のしやすさに関わるため、事前の情報共有が欠かせません1


糖尿病による血糖値の乱れが招く「傷の治りにくさと感染リスク」


血糖値が高い状態が続くと白血球の働きが鈍くなり、細菌への抵抗力も落ちやすくなるとされています1。その結果、抜歯やインプラント手術のあと、歯ぐきの傷が閉じにくくなったり、術後感染を起こしやすくなったりすることがあります。


一般的には、ヘモグロビンA1cが7.0%前後までコントロールできていることが、外科処置を安全に進める目安とされています。極端な高血糖の状態で手術を行うと、骨とインプラントの結合が遅れる可能性があるほか、術後の腫れや痛みが長引く要因にもなり得ます。


日頃の血糖値や直近の検査結果をお薬手帳と一緒にお持ちいただければ、手術日程の調整や術前後の抗菌薬の使い方を含め、より慎重に計画を立てやすくなります。


骨粗しょう症治療薬(BP製剤など)と「顎骨壊死」が話題になる条件


骨粗しょう症の治療では、ビスホスフォネート製剤(BP製剤)、デノスマブ(RANKL阻害薬)、SERM、副甲状腺ホルモン製剤などが使い分けられています。なかでもBP製剤やデノスマブを長期に使用している方では、抜歯などの外科処置をきっかけに、まれに「薬剤関連顎骨壊死(MRONJ)」が起こる可能性が報告されています。


リスクが高まりやすい条件としては、長期服用、注射製剤の使用、ステロイドや糖尿病など他の全身疾患の併存、口腔内の清掃状態の不良などが挙げられます。一方、内服薬を短期間使っているだけの方であれば、リスクは比較的低いと考えられています。


いずれの場合も、骨粗しょう症のお薬を使用中の方は、薬剤名・剤形(飲み薬か注射か)・開始時期を正確に伝えていただくことが、安全な治療計画の第一歩になります。


血液をサラサラにする薬(抗凝固薬・抗血小板薬)と術中・術後の出血


ワルファリン、DOAC(直接経口抗凝固薬)、バイアスピリンやクロピドグレルなどの抗血小板薬は、血液を固まりにくくして脳梗塞や心筋梗塞を防ぐ大切な薬です。一方で、抜歯やインプラント手術の際には術中の出血量がやや増えたり、術後に出血が止まりにくくなったりすることがあります。


現在の歯科ガイドラインでは、抜歯程度の処置であれば、これらの薬を中止せず継続したまま、局所的な止血処置で対応する方針が一般的になっています1。縫合、止血用スポンジ、圧迫止血などを組み合わせることで、多くの場合は安全に処置を進めやすくなります。


大切なのは、薬の種類・用量・最終服用時刻を歯科医師が把握しておくこと。これにより、止血の準備や術後の安静指示をより的確に行いやすくなります。


薬の「自己判断による休薬」に注意が必要な理由

薬の「自己判断による休薬」に注意が必要な理由

「手術前だから血液サラサラの薬は止めておこう」「血糖値が高いと困るから今日は薬を抜こう」――こうした自己判断は、思わぬ体調変化を招くおそれがあります。薬は内科の主治医が全身の状態を踏まえて処方しているもの。勝手な中断や減量は避けることが大切です。


抗血栓薬を自己判断で一時中断する場合に注意したいこと


抗凝固薬や抗血小板薬は、血管の中で血の塊(血栓)ができるのを抑え、脳梗塞・心筋梗塞・心房細動による脳塞栓などを防ぐ目的で処方されています。これを自己判断で数日止めるだけでも、血栓ができやすい状態に戻り、重大な発作につながる可能性があるとされています1


現在は、抜歯のような出血量が限定的な処置では、薬を継続したまま行うほうが、休薬による血栓リスクより安全と判断されることが多くなっています。出血が心配なときも、まずは服用を続けたまま歯科医院に相談することが基本です。


糖尿病薬の不規則な服用・中断による「糖尿病性昏睡」などの急性症状


糖尿病の治療薬には、経口血糖降下薬やインスリン注射などさまざまな種類があります。手術当日の食事内容や絶食時間によって薬の量や服用タイミングを調整する必要があるため、判断は内科医に委ねるのが安全です。


自己判断でインスリンを多めに打ったり、逆に飲み忘れたりすると、低血糖発作や高血糖による意識障害(糖尿病性昏睡)といった急性合併症のリスクが高まる可能性があります。手術前の食事の有無や当日の薬の指示は、必ず主治医からの具体的な指示に従ってください。


自己判断を避け「主治医(内科)と歯科医師の連携」に委ねるべき理由


安全な歯科手術のカギは、患者さんが一人で判断しないことに尽きます。歯科医師から内科の主治医に「対診」と呼ばれる情報照会を行い、現在の検査値・薬の継続可否・休薬する場合の期間などを書面でやり取りしたうえで治療計画を立てていきます。


この医科歯科連携が機能していれば、患者さんは「いつ・何を・どれだけ服用するか」を医療者の指示どおりに守るだけで済みます。難しい判断を背負い込む必要はありません。お薬手帳と、内科の診察券・直近の検査結果のコピーを持参いただくとスムーズです。


東岡崎ジョイ歯科での安全な歯科手術に向けた「医科歯科連携」と対応フロー


当院では、持病をお持ちの方の歯科手術を安全に進めるため、初診から手術当日、そして術後のメンテナンスまで一貫した流れを整えています。「患者さんに選ばれる歯科医院、満足していただける歯科医院を目指して」という方針のもと、内科との連携と高度な設備を組み合わせて対応しています。


初診時のお薬手帳の確認と内科主治医への「対診(情報照会)」の実施


初診時のカウンセリングでは、お薬手帳・既往歴・直近の血液検査結果を丁寧に確認します。糖尿病・骨粗しょう症・抗血栓療法のいずれか(あるいは複数)に該当する場合は、内科の主治医宛てに書面で情報照会を行い、現在の全身状態、休薬の可否や期間、術前後の注意点を文書で共有したうえで治療計画を策定します。


「持病をうまく説明できるか不安」と感じても問題ありません。受付やカウンセリングでお薬手帳をお見せいただければ、こちらから必要事項を整理してお伺いします。


歯科用CTによる骨質・血管走行の精密分析とマイクロスコープによる低侵襲手術


当院では歯科用CTで顎の骨の厚みや密度、神経・血管の走行を立体的に把握し、抜歯やインプラント手術の安全性を高める工夫をしています。骨粗しょう症で骨質が低下している方や、糖尿病で治癒が遅れやすい方では、術前のシミュレーションがとくに重要です。


さらに、マイクロスコープを用いた拡大視野下での処置によって、必要最小限の範囲で歯ぐきや骨を扱う低侵襲なアプローチを心がけています。傷を小さく保つことは、出血や感染のコントロールにもつながります。


高圧蒸気滅菌器や口腔外バキュームによる感染予防対策


抵抗力が落ちやすい糖尿病の方や、感染が顎骨壊死のきっかけになり得る骨粗しょう症治療中の方にとって、診療室の清潔さは大きな安心材料です。当院では高圧蒸気滅菌器による器具の滅菌、医療用空気清浄機と口腔外バキュームによる飛沫・粉塵対策を行い、衛生管理に努めています。


また、手術後のメンテナンスも重視しており、インプラントなど外科処置を行った場合は、長期的な経過観察と歯周ケアを継続的に行っています。


見落とされがちな視点:糖尿病が骨質に与える影響と複数疾患が重なる場合の留意点


糖尿病・骨粗しょう症・抗血栓療法のうち2つ以上を併せ持っている方では、それぞれのリスクが単純な足し算ではなく、相乗的に重なって現れることがあります。複数の持病を抱えている方こそ、術前の評価と術後の管理がより重要になります。


糖尿病性骨病変による骨質の低下がインプラントや抜歯後の骨治癒に与える影響


近年、糖尿病そのものが骨のコラーゲン構造を劣化させ、骨密度が保たれていても折れやすい・治りにくい状態を作ることが指摘されています(糖尿病性骨病変)1。骨粗しょう症の薬を併用している方では、もともとの骨質の低下に加え、薬剤の影響も重なるため、抜歯後の骨の治り方やインプラントと骨の結合に時間がかかる可能性があります。


このため、糖尿病と骨粗しょう症が併存する方では、血糖コントロールを整えたうえで、骨の状態に応じた治療計画やメンテナンス間隔の設定が欠かせません。


「傷が治りにくい」と「血が止まりにくい」が重なった場合の術後管理のポイント


糖尿病による創傷治癒の遅れと、抗血栓薬による出血のしやすさが重なると、術後の出血が長引きやすく、感染も起こりやすい状態になることがあります。当院ではこうした方に対して、縫合や止血材を組み合わせた局所止血、術後の経過観察の回数を増やす、必要に応じて抗菌薬を慎重に選択するといった対策を行います。


ご自宅での過ごし方として、当日の入浴・飲酒・激しい運動を控えること、止血のためのガーゼをしっかり噛んでいただくこと、出血が続く場合は早めに連絡いただくことなど、生活面での注意点も丁寧にお伝えします。複数の持病があっても、適切な準備と連携によって、安心して治療に臨んでいただける環境づくりに努めています。


参考文献


1. 厚生労働省 健康づくりサポートネット(疾病・健康に関する情報). https://kennet.mhlw.go.jp/information/


よくあるご質問


Q1. 手術前に中止する糖尿病薬はありますか?

A. 糖尿病薬の調整は内科の主治医が判断します。手術当日の食事内容や絶食の有無によってインスリンや経口薬の量・タイミングを変える必要があるため、自己判断で中止せず、必ず主治医の指示に従ってください。歯科からも対診で情報を共有します。


Q2. バイアスピリンを術前に休薬しないのはなぜですか?

A. バイアスピリンなどの抗血小板薬は、脳梗塞や心筋梗塞を防ぐ目的で処方されています。自己判断で休薬すると血栓のリスクが高まる可能性があるため、抜歯程度の処置では継続したまま局所止血で対応する方針が一般的です。継続か休薬かの最終判断は、内科医と歯科医師が相談して決めます。


Q3. 骨粗しょう症の手術前に休薬すべき薬はありますか?

A. ビスホスフォネート製剤やデノスマブなどは、処方医と歯科医師の連携のもとで休薬の可否を判断します。薬の種類・剤形(飲み薬か注射か)・服用期間によって対応が変わるため、お薬手帳を必ずお持ちください。短期内服のみであれば、継続したまま処置を行うことも少なくありません。


Q4. 骨粗しょう症の薬を飲んでいると抜歯はできませんか?

A. 一律にできないわけではありません。薬の種類や服用歴、口腔内の状態によってリスクは異なります。事前の口腔ケアを整え、必要に応じて主治医と協議したうえで、慎重に処置の可否を検討します。


Q5. 持病が複数あってもインプラント治療は受けられますか?

A. 血糖コントロールが安定し、骨や全身状態が一定の基準を満たしていれば、内科との連携のもとでインプラント治療を検討できる場合があります。まずはカウンセリングで状況を共有いただき、CTによる精密検査と主治医への対診を経て判断します。


荻野 一樹

歯科医師


東岡崎ジョイ歯科

理事長

荻野 一樹

▶ 監修者プロフィール

経歴
愛知県豊田市出身
愛知県立豊田西高校 卒業
国立鹿児島大学歯学部歯学科 卒業
医療法人小室会 小室歯科ステーション診療所 勤務
東岡崎ジョイ歯科開院
医療法人JOY 設立
株式会社ジョイ SONA DENTAL LABORATORY 設立
実習受け入れ実績:名古屋医療秘書福祉&IT専門学校(歯科助手実習)
資格・所属学会
エンジェルキッズ竜美丘園 園医
社団法人日本健康寿命を伸ばす会 代表理事
オステムインプラント公認アドバイザー
大阪口腔インプラント研究会25期生
大森塾8期生
臨床歯科麻酔管理指導医
日本有病者歯科医療学会