Column 矯正治療の豆知識

ガタガタな歯並び叢生を改善へ|目立ちにくい大人向け矯正の選び方

ガタガタな歯並び叢生を改善へ|目立ちにくい大人向け矯正の選び方

目次

前歯の重なりが気になって、思いきり笑えないあなたへ


Web会議の録画を見返したとき、話す瞬間に映った前歯のガタつきが気になった——そんな経験はありませんか。フロスが引っかかる、歯ぐきが腫れやすい。悩みが重なると、見た目だけの話では済まなくなってきます。この記事では、歯並びがガタガタになる叢生がどう生まれるのか、そのまま過ごした場合に起こりやすい変化、そして目立ちにくいマウスピース型矯正で整えていく考え方を、費用や通院ペースまで含めて整理しました。


この記事の要点まとめ


  • 叢生は歯と顎のバランス等で生じ、整えることで日々の口腔ケアの向上につながります。
  • マウスピース型矯正は目立ちにくい装置を用い、段階的に歯並びの改善を図る方法です。
  • 歯の移動後は元の位置へ戻ろうとする傾向があるため、保定装置による管理が重要です。

歯並びがガタガタになる叢生の成り立ちと放置による口腔トラブル

歯並びがガタガタになる叢生の成り立ちと放置による口腔トラブル

前歯がデコボコに重なった状態を「叢生(そうせい)」と呼びます。不正咬合のなかでも、ご相談の多いタイプのひとつです。八重歯も、犬歯が並びきらずに外へ押し出された叢生の一種と考えられています。では、なぜ重なりが生まれるのか。まずは口の中の構造から見ていきましょう。


顎の骨の幅と歯の大きさのアンバランスが生むスペース不足


叢生の背景にあるのは、多くの場合顎の骨の幅に対して歯が並びきるスペースが足りていない状態です。歯そのものが大きめだったり、顎の成長が控えめだったり。こうした組み合わせで歯列の長さが確保できず、押し合った歯が前後にずれて重なっていきます。


要因は遺伝的な骨格の傾向だけではありません。乳歯期にむし歯で歯が早く失われ、後ろの歯が前方へ寄ってスペースが減ってしまうこともあります。口呼吸や指しゃぶり、舌で歯を押す癖といった口腔習癖が歯列の形に影響することも知られています3。成長期に整えきれなかったバランスが、大人になってから前歯のガタつきとして表面に出てくるわけです。


重なり部分の磨き残しが招くむし歯と歯ぐきの炎症リスク


歯が重なった部分は、歯ブラシの毛先が届きにくい。フロスも引っかかりやすくなります。その結果、歯垢(プラーク)が停滞しやすく、むし歯や歯ぐきの炎症が起こりやすい環境になりがちです2


歯周病は自覚症状に乏しいまま進むことがあり、「気づいたときには歯ぐきの腫れや出血が習慣になっていた」というお話も少なくありません4。定期検診で「この部分だけ磨き残しが多い」と繰り返し指摘されるようなら、清掃のテクニックというより歯並びの形態そのものが関係している可能性があります。歯並びを整えるという選択は、見た目のためだけでなく、毎日のケアのしやすさを底上げする意味も持っています。


【よくある誤解】自力やトレーニングだけで大人の重なりは改善できるのか


「指で押せば動くのでは」「舌のトレーニングで並ぶのでは」。こうしたご質問をよくいただきます。MFT(口腔筋機能療法)は舌や口周りの筋肉の使い方を整える方法で、成長期のお子さんでは歯列環境の下支えとして取り入れられることがあります。


ただ、顎の成長が完了した大人の場合、筋機能訓練だけで既に重なった歯の位置を並べ替えることは想定されていません。自己流で歯に力を加える行為は、歯ぐきや歯根に望ましくない負担がかかる可能性があるため、控えていただくようお願いしています。大人の叢生では、診査に基づいた矯正装置による計画的な歯の移動が基本の考え方になります。


大人の叢生を目立ちにくく整えるマウスピース型矯正のアプローチ


人前に立つ機会が多い方にとって、装置の見え方は大きな検討材料になります。透明なマウスピース型の装置は、装着していても周囲から気づかれにくいとされている点が特徴です。


透明な装置で段階的に歯列を整える仕組みと適応の目安


マウスピース型矯正では、少しずつ形の違う薄い装置を順番に交換しながら、歯を計画された位置へ移動させていきます。1枚あたりの移動量はごくわずか。その積み重ねで歯列の並びを変えていく方法です。取り外しができるため、食事や歯磨きは普段どおり行えます。清掃性を重視したい方には、ここが利点になるでしょう。


一方で、1日20〜22時間程度の装着が前提となる自己管理型の治療でもあります。装着時間が確保できないと計画どおりに進みにくくなるため、この点は始める前に確認しておきたいところです。


当院では幅広い症例に対応できるインビザラインコンプリヘンシブを採用し、歯のガタガタや受け口、出っ歯が気になる方のご相談を受けています。当院の症例では、前歯のがたつきを主訴とした全顎症例で治療期間が約1年3ヶ月、下前歯の並びに関する下顎症例で約11ヶ月といった経過を記録しています。ただし適応や期間は骨格・歯の状態によって幅がありますので、精密検査を経ての判断が前提となります。


前歯の重なりを解消するためのスペース確保(IPRと歯列拡大)


叢生への対応では、歯を並べるためのスペースをどう生み出すかが計画の要になります。代表的な方法のひとつがIPR(ディスキング)。歯と歯の接触面のエナメル質を0.2〜0.5mm程度わずかに研磨し、必要な隙間を確保する処置です。歯の中央を大きく整えるものではなく、限られた量にとどめる前提で計画します。


もうひとつが歯列の側方拡大です。奥歯の傾きを起こしたり、歯列のアーチをわずかに広げたりして、内側に入り込んだ歯を収める場所をつくります。これらを組み合わせることで、非抜歯で対応できる範囲が広がるケースもあります。


ただし、重なりの量が大きい場合、あるいは口元の前突感も同時に見直したい場合には、抜歯を含めた計画が向いていることもあります。非抜歯にこだわりすぎると口元が前へ出る方向に働くこともあるため、抜歯・非抜歯は精密検査の結果を踏まえ、ご相談のうえで決めていく事項です。


セラミック治療で歯を削る方法と矯正治療における天然歯の温存の違い


短期間で歯の形態を整える方法として、健康な歯を削って被せ物を装着する治療が紹介されることがあります。治療期間が短い点は特徴ですが、天然歯の歯質を大きく削ることになり、場合によっては歯の神経への処置が必要になることも。被せ物には寿命があり、将来的な再治療も想定しておく必要があります。


対して矯正治療は、時間はかかるものの自分の歯を並べ替えていくアプローチ。歯質の削除量はIPRの範囲にとどまります。どちらが向いているかは、ご希望の時期や歯の状態によって変わってきます。それぞれの利点と留意点を確認したうえで選んでいくとよいでしょう4


叢生治療を始める前に知っておきたい口腔内の変化とリスク対策


矯正治療は歯を動かす医療行為です。経過のなかで口腔内に変化が生じることもあります。あらかじめ知っておけば、途中で戸惑わずに済みます。


重なりの解消後に現れやすいブラックトライアングルへの向き合い方


重なっていた歯が並ぶと、歯と歯の根元付近に三角形の隙間が見えてくることがあります。これがブラックトライアングルです。歯が重なっている間は隠れていた歯ぐきの形態が、並んだことで見えるようになる現象で、歯ぐきが下がったのではなく、もともとの形が表に出たというケースも含まれます。


歯周組織に炎症があると起こりやすいとされるため、治療前からの歯ぐきの状態管理が大切になります2。生じた場合には、IPRで歯の形を微調整して接触点を下げる方法などを検討します。気になる可能性がある方は、治療計画を立てる段階で歯科医師に伝えておくと、事前に対応方針を共有できます。


歯根への過度な負担を避けるための精密な診断と移動計画


歯を動かす際、強すぎる力や無理な方向の移動が続くと、歯根の先端がわずかに短くなる歯根吸収が起こることがあります。程度の個人差は大きく、多くは臨床上問題にならない範囲とされていますが、事前の把握は欠かせません。


そのために行うのが、レントゲンや歯科用CTによる歯根の形態・長さ・骨の厚みの確認です。当院では歯科用CTを導入しており、平面のレントゲンでは把握しづらい骨の状態も立体的に確認したうえで計画を立てています。急いで大きく動かすのではなく、生体が受け入れられるペースで進める設計が、リスクを抑える基本になります。


整えた位置を維持するために欠かせない保定装置(リテーナー)の装着


矯正で動かした歯は、周囲の歯根膜や骨が新しい位置に落ち着くまで、元へ戻ろうとする性質を持っています。これが後戻りで、装置を外した直後の数ヶ月がとくに動きやすい時期とされています。


そこで使うのがリテーナー(保定装置)。一般的には、装置を外した後の一定期間はほぼ終日装着し、その後は就寝時のみへと段階的に移行していきます。保定期間の目安は動かした期間と同程度以上とされることが多く、長期的に夜間だけ続ける方もいます。


マウスピース型矯正に慣れた方であれば、就寝時のリテーナーは生活に組み込みやすい面があります。歯並びを整える工程と同じくらい、保定はその状態を保つうえで重要な期間です。


仕事と治療を両立しやすいマウスピース型矯正の計画と環境選び

仕事と治療を両立しやすいマウスピース型矯正の計画と環境選び

矯正は年単位で続く治療です。だからこそ、無理なく通い続けられる環境かどうかが、検討段階での確認ポイントになります。


口腔内スキャナーによる精密な型取りとシミュレーションの活用


従来の型取りに苦手意識をお持ちの方は少なくありません。当院では口腔内スキャナー(iTero)を導入しており、口の中を光学的にスキャンして歯列を立体データ化します。粘土状の材料を長時間口に入れる負担が軽くなり、短時間で終わるため、えずきやすい方にも取り組みやすい方法です。


スキャンしたデータをもとに、歯がどの順序でどこへ移動していく計画なのかを画面上で確認できます。前歯の重なりをどう整理していく想定なのかを一緒に見ながら説明を受けられるので、治療の方向性を共有しやすくなります。ただしシミュレーションは計画上の予測であり、実際の動きには個人差がある点はご理解ください。


土曜・日曜の日中診療や柔軟な通院間隔を活かしたスケジュール管理


「平日の残業で通院時間が読めない」という声はよくいただきます。当院の診療時間は平日9:00〜12:30/14:00〜18:30、土曜・日曜は9:00〜14:30の日中診療です(祝日は診療の場合があります。ご来院前にご確認ください)。


マウスピース型矯正は装置の交換をご自宅で行える設計のため、通院間隔を1〜3ヶ月程度に設定できることがあります。調整のたびに来院が必要な方法と比べると来院回数を抑えやすく、出張や繁忙期のある働き方とは相性のよい部分です。また当院は完全担当医制。毎回同じ担当医が経過を追うので、同じ説明を繰り返す負担が少なく、治療に一貫性を持たせやすくなります。


費用の全体像とデンタルローンを活用した無理のない支払い設計


矯正治療は原則として自由診療です。当院で公開している症例では、全顎のマウスピース型矯正で990,000円、範囲を限定した症例で220,000円〜660,000円といった費用実績があります(いずれも税込・症例ごとの実績であり、費用は診断結果により異なります)。副作用・リスクとして、治療の初期段階では痛みや不快感が生じやすくなりますが、1週間前後で慣れていく方が多いとされています。


一括でのお支払いが難しい場合は、デンタルローンによる分割をご案内できます。また、歯並びや噛み合わせの機能面の改善を目的とした矯正治療は医療費控除の対象となる場合があり、確定申告で還付を受けられる可能性もあります1。対象になるかは個々の状況によりますので、領収書を保管したうえで税務署等にご確認ください。


費用を検討するときは総額だけでなく、精密検査料・調整料・保定装置費用が含まれるかどうかまで確認しておくと、後から想定外の出費が生じにくくなります。


よくある質問


Q1. 歯並びがガタガタな場合でも、矯正治療は受けられますか?


A. 重なりの程度や顎の骨格、歯周組織の状態によって適応は変わります。歯ぐきに炎症がある場合は、先にその管理を行ってから矯正へ進む流れが一般的です。まずは精密検査で骨や歯根の状態を確認し、マウスピース型で対応できる範囲かを判断していきます。重度の場合は、別の方法や抜歯を含む計画が向いていることもあります。


Q2. リテーナーを1週間つけ忘れたら、どうなりますか?


A. 後戻りの程度には個人差がありますが、装置を外して間もない時期ほど歯は動きやすい状態です。数日でリテーナーがきつく感じることもあります。無理に押し込まず、まずは歯科医院へご連絡ください。入りにくい状態が続く場合は、作り直しや部分的な再調整で対応することがあります。


Q3. マウスピース型矯正は、部分的な範囲だけでも相談できますか?


A. 前歯部の軽度な重なりであれば、範囲を限定した計画を検討できる場合があります。一方、奥歯の噛み合わせにずれがある、スペース不足が大きいといったケースでは、全体を対象とした計画のほうが向いていることも。検査結果をもとに、ご希望と併せて相談していきます。


Q4. 矯正治療に保険は使えますか?


A. 見た目の改善を主目的とする矯正は、原則として自由診療です。ただし顎変形症に対する外科的矯正治療や、国が定める先天性疾患に該当する場合など、限られた条件では公的医療保険が適用されることがあります。該当するかどうかは診断が必要ですので、ご相談ください。


Q5. 治療中、仕事での会話や接客に影響はありませんか?


A. 装着直後は発音に違和感を覚える方もいますが、多くは数日から1〜2週間で慣れていくとされています。大切な商談やプレゼンの直前に始めるより、少し余裕のある時期にスタートすると調整しやすいでしょう。取り外しができる装置ですので、状況に応じた対応もご相談いただけます。


参考文献


1. 厚生労働省「健康づくりサポートネット(疾病・健康に関する情報)」 https://kennet.mhlw.go.jp/information/

2. 厚生労働省「健康づくりサポートネット(口腔・歯の健康)」 https://kennet.mhlw.go.jp/information/teeth

3. 日本小児歯科学会 https://www.jspd.gr.jp/

4. 公益社団法人 日本歯科医師会 https://www.jda.or.jp/


荻野 一樹

歯科医師


東岡崎ジョイ歯科

理事長

荻野 一樹

▶ 監修者プロフィール

経歴
愛知県豊田市出身
愛知県立豊田西高校 卒業
国立鹿児島大学歯学部歯学科 卒業
医療法人小室会 小室歯科ステーション診療所 勤務
東岡崎ジョイ歯科開院
医療法人JOY 設立
株式会社ジョイ SONA DENTAL LABORATORY 設立
実習受け入れ実績:名古屋医療秘書福祉&IT専門学校(歯科助手実習)
資格・所属学会
エンジェルキッズ竜美丘園 園医
社団法人日本健康寿命を伸ばす会 代表理事
オステムインプラント公認アドバイザー
大阪口腔インプラント研究会25期生
大森塾8期生
臨床歯科麻酔管理指導医
日本有病者歯科医療学会