インプラント治療の豆知識 COLUMN

奥歯を失った方へ|部分入れ歯とインプラントの噛む力・歯への負担

奥歯を失った方へ|部分入れ歯とインプラントの噛む力・歯への負担

下の奥歯を1本失ったあと、補い方を決める前に知っておきたいこと


昼食の肉や繊維の多い野菜を、つい反対側だけで噛んでいる。下の奥歯を失ったあと、こうした変化に気づく方は少なくありません。部分入れ歯とインプラントでは、噛む力が歯ぐきや残った歯に伝わるのか、顎の骨に伝わるのかが異なります。


この記事では、力の通り道を図のイメージで整理します。そのうえで、残る歯への負担、装着感や手入れ、費用と通院の見通し、診察で尋ねたい点をまとめました。図の数値は説明用のもので、ご自身の測定結果ではありません。


この記事の要点まとめ


  • 部分入れ歯は歯ぐきや支えの歯、インプラントは顎の骨へ噛む力が伝わる仕組みです。
  • 残る歯への負担や義歯の動きは、失った位置・支え方・歯や骨の状態で異なります。
  • 装着感や手入れ、費用・通院回数を確認し、食事や生活の希望を診察で相談しましょう。

部分入れ歯とインプラントでは、噛む力の伝わり方が違う

部分入れ歯とインプラントでは、噛む力の伝わり方が違う

部分入れ歯は、噛んだ力を歯ぐき(その下の骨)と金具をかける歯で分け合って受け止めます。インプラントは人工歯根を通じて、力を顎の骨へ伝える仕組みです。


部分入れ歯で噛む力が歯ぐきと支えの歯へ向かう仕組み


下の奥歯を失った例で考えてみます。人工の歯で噛むと、その力は床(歯ぐきに乗るピンク色の土台)を通じて歯ぐきへ流れます。同時に、金具やレスト(隣の歯に乗せる小さな突起)を通じて隣の歯にも伝わります。


歯ぐきは押されるとわずかに沈むため、噛むたびに義歯が少し動く感覚が出ることも。どの歯に金具をかけ、床をどこまで広げるかは設計によって変わり、力の配分も一人ひとり異なります。


インプラントで噛む力が顎の骨へ伝わる仕組み


インプラントは、顎の骨に埋めた人工歯根の上に人工の歯を固定する方法です。力は人工歯根から周りの骨へ伝わるため、隣の歯に金具をかける必要はありません。


ただし、天然の歯にある歯根膜(歯と骨の間でクッションの役割をする膜)との違いについては、歯科医師にご相談ください。噛んだときの感触が天然の歯と同じになるとは言い切れず、骨の量や質、上下の噛み合わせによって力のかかり方も変わります。


比べる点部分入れ歯インプラント
噛む力の主な行き先歯ぐき・金具をかける歯顎の骨
隣の歯とのかかわり支えとして使うことが多い原則として使わない
取り外し自分で外して洗う固定式で外さない

表はあくまで基本的な違いです。義歯の設計や骨の状態によって、実際の力の分かれ方は変わります。


模式図の数値は、自分の噛む力を示しているわけではない


「天然の歯を100とすると〜」のような割合を図で見かけることがあります。こうした数値は、説明用の仮定値と考えてください。噛む力は、測り方(専用の機器で測るか、食品の噛み砕き方で評価するか)や、失った歯の位置、義歯の合い具合、噛み合わせで大きく変わります。


部分入れ歯に少数のインプラントを組み合わせた場合の研究では、患者さんによる評価や噛む機能の変化を報告した論文がまとめられています1。ただし、単独のインプラントと比べた研究ではないため、一律の優劣を示すものではありません。


ポイント

噛む力の数値は条件しだいで変わります。ご自身の状態は、診察と検査で確かめていきましょう。


残っている歯への負担は、失った奥歯の位置と支え方で変わる

残っている歯への負担は、失った奥歯の位置と支え方で変わる

金具をかけた歯への負担は、失った歯が歯列の一番奥か途中か、そして義歯の設計で変わります。金具があるだけで支えの歯に問題が起きるとは限りません。反対に、インプラントにすれば残る歯への影響がなくなる、というわけでもありません2。


一番奥を失った場合と、両隣に歯がある場合


失った奥歯の両隣に歯が残っていれば、義歯は前後の歯で支えられ、沈み込みや揺れが比較的抑えられます。


一番奥の歯を失い、後ろに支えがない場合は事情が異なります。義歯の奥側の沈み込みや、手前の金具をかけた歯への力のかかり方には個人差があるため、歯科医師が判断します。床を広めにとる、金具の位置を工夫するなど、設計を個別に考える必要があります。


金具をかける歯や顎の骨は、何を調べるのか


診察では、主に次の点を確認します。


  • 金具をかける候補の歯の揺れ、むし歯や被せ物の状態
  • 歯ぐきや歯を支える骨の状態(歯周病の有無)
  • 上下の噛み合わせと、反対側の奥歯の状態
  • インプラントを考える場合の骨の厚み・高さ、神経の位置

歯根破折(歯の根が割れること)で抜歯したあと、そのままにしている方もいらっしゃいます。その場合も、隣の歯の傾きや、噛み合う歯の伸び出しがないかを一緒に確かめます。なお、細いインプラントを部分入れ歯の補助に使う研究もありますが3、その結果を通常のインプラントへそのまま当てはめることはできません。


部分入れ歯が外れやすいときは、慣れだけで済ませない


装着して間もない時期の軽い違和感なら、慣れとともに落ち着くことがあります。ただ、食事のたびに浮く・外れるという場合は、義歯の合い具合や噛み合わせのずれが関わっているかもしれません。


痛みが続く、歯ぐきに傷ができる、外れることを繰り返すといった状態であれば、次の調整日を待たずにご相談ください。


食事中の装着感と毎日の手入れにも違いがある


部分入れ歯は取り外して洗う手間がかかり、インプラントは口の中で清掃しながら周りの炎症に気を配ります。食べやすさも治療法だけでは決まらず、口の状態や調整によって変わります。


肉や繊維の多い野菜を食べるとき、何が気になりやすいか


弾力のある肉や繊維の多い野菜は、何度も強く噛む必要がある食材です。部分入れ歯では噛むたびに義歯が沈んだり動いたりし、床と歯ぐきの間に食べかすが入り込むことがあります。


インプラントは固定式なので、動く感覚は出にくいでしょう。それでも人工の歯と歯ぐきのすき間に繊維が挟まることはあり、治療後に噛み合わせを細かく調整していく場合もあります。どちらの方法でも、「豚肉の生姜焼きが噛み切りにくい」など具体的な食材を伝えると、調整の手がかりになります。


食べるときだけ部分入れ歯を外してもよいのか


食事中にずれるからといって外して食べる習慣が続くと、残った歯に片寄って力がかかります。噛み合わせが変わるきっかけにもなりかねません。


外したくなる背景には、合い具合や噛み合わせなど、調べられる原因があることが少なくありません。まずは診察で確かめましょう。夜間に外すかどうかを含め、装着時間の指示は口の状態によって異なるため、歯科医師に確認してください。


取り外して洗う部分入れ歯と、口の中で清掃するインプラント


部分入れ歯は毎食後に外して流水で洗い、専用ブラシで汚れを落とします。金具をかける歯の周りは汚れが残りやすいので、歯磨きも丁寧に。使ううちに歯ぐきの形が変わり、調整や修理が必要になることもあります。


インプラントは、歯ブラシに加えて歯間ブラシやフロスで清掃します。インプラント周囲炎(周りの歯ぐきや骨に起こる炎症)への対応やメンテナンスの頻度は、口の状態に応じて歯科医師が判断します。


費用と通院の見通しを聞き、自分の歯と骨に合う選択肢を考える


どちらが合うかは、残る歯と骨の状態、通院できる日数、費用の考え方を合わせて判断します。歯の補い方を比べた研究を集めても、どれが一律に優れていると結論づけるだけの根拠はそろっていません2。


製作・手術・調整で、通院の進み方はどう違うか


部分入れ歯は、診察・型取り・噛み合わせの記録・試し・装着と進み、装着後に数回の調整を行うのが一般的な流れです。インプラントは検査と治療計画のあとに手術を行い、骨と結合するのを待ってから人工の歯を装着します。骨を補う処置が加わると、期間が延びることもあります。


仕事や家族の送迎で休める日が限られるなら、次の点を尋ねておくと予定が立てやすくなります。


  • 来院回数のおおよその見込みと、1回あたりの時間
  • 手術当日や翌日の仕事への影響
  • 治療中に歯がない期間が生じるかどうか

費用を尋ねるときは、調整や修理まで確認する


部分入れ歯には保険診療で作れるものがあり、金属床義歯やノンクラスプデンチャー(金具の目立たない義歯)などは自費診療です。自費の義歯は素材によって薄く作れるなど、長く使ううえでの装着感に関わる違いがあります。インプラント治療は保険適応外となります4。手術に伴う腫れや痛み、まれに神経への影響といったリスクもあります。


見積もりでは、検査・製作・装着後の調整・修理がどこまで含まれるかを確認しましょう。公開されている費用の目安は一般的な相場であり、当院の費用ではありません。実際の費用は医療機関により異なります。インプラントの医療費控除でどのくらい戻るかも、所得や1年間の医療費の合計で変わるため、個別に確かめてください。


相談する際に伝えたい食事と通院の希望


相談の際は、「肉を噛み切りにくい」「取り外しは避けたい」「休めるのは月に何日まで」など、食事と生活の希望をそのまま伝えてください。説明を聞くときは、残る歯の状態や通院の負担について、気になる点を歯科医師に尋ねてみましょう。インプラントを考える場合は、必要に応じて歯科用CTなどで骨の厚みや神経の位置を確認し、残る歯の状態と合わせて選択肢を検討します。


通院にかかる移動時間も含め、仕事の合間に相談の予定を組めるか考えておくとよいでしょう。


ポイント

相談したからといって、その場で治療を決める必要はありません。「美味しいものをいつまでも食べたい」という希望を出発点に、納得できる方法を一緒に考えましょう。


受診の前に、噛みにくい食材と通院できる曜日をメモしておくと、診察での話が進めやすくなります。


よくある質問


Q. 部分入れ歯の噛む力はどのくらいですか?


A. 一律の数値では示せません。噛む力は測り方、失った歯の位置や本数、義歯の合い具合、噛み合わせによって変わります2。インプラントを組み合わせた部分入れ歯の研究もありますが、条件が異なるため、そのまま個人に当てはめることはできません1。ご自身の状態は診察で確認しましょう。


Q. 部分入れ歯は噛むと外れることがありますか?


A. 合い具合や噛み合わせがずれていると、噛んだ拍子に浮いたり外れたりすることがあります。一番奥の歯を失って後ろに支えがない場合は、義歯が動きやすい傾向もあります。繰り返す場合は、慣れを待たずに調整をご相談ください。


Q. 部分入れ歯は食べるときだけ外してもいいですか?


A. 日常的に外して食べると、残った歯に片寄って力がかかりやすくなります。食べにくさの原因を診察で調べ、調整を検討するのが先決です。装着時間の指示は口の状態によって異なるため、歯科医師に確認してください。


Q. 40代で部分入れ歯を使っている人はどれくらいいますか?


A. 年代別の割合は、調査の方法や時期によって数字が異なります。40代でも奥歯を失い、部分入れ歯を使っている方はいらっしゃいます。年齢よりも、失った歯の位置や残る歯・骨の状態で選択肢を考えることが大切です。


Q. インプラントの医療費控除では、どのくらい戻ってきますか?


A. 戻る金額は、1年間に支払った医療費の合計や所得によって変わるため、一律にはお答えできません。対象になる条件や計算方法は、税務署や税理士などにご確認ください。


参考文献


1. Park JH, Lee JY, Shin SW, et al. Effect of conversion to implant-assisted removable partial denture in patients with mandibular Kennedy classification Ⅰ: A systematic review and meta-analysis. Clinical oral implants research. 2020. PMID: 31945212 / DOI: 10.1111/clr.13574

2. Abt E, Carr AB, Worthington HV. Interventions for replacing missing teeth: partially absent dentition. The Cochrane database of systematic reviews. 2012. PMID: 22336794 / DOI: 10.1002/14651858.CD003814.pub2

3. Mundt T, Heinemann F, Müller J, et al. Survival and stability of strategic mini-implants with immediate or delayed loading under removable partial dentures: a 3-year randomized controlled clinical trial. Clinical oral investigations. 2023. PMID: 36472683 / DOI: 10.1007/s00784-022-04805-2

4. 口腔インプラント科 – 覚王山の歯医者なら 愛知学院大学歯学部附属病院. https://hospital.dent.agu.ac.jp/medical-guide/implant/


荻野 一樹

歯科医師


東岡崎ジョイ歯科

理事長

荻野 一樹

▶ 監修者プロフィール

経歴
愛知県豊田市出身
愛知県立豊田西高校 卒業
国立鹿児島大学歯学部歯学科 卒業
医療法人小室会 小室歯科ステーション診療所 勤務
東岡崎ジョイ歯科開院
医療法人JOY 設立
株式会社ジョイ SONA DENTAL LABORATORY 設立
実習受け入れ実績:名古屋医療秘書福祉&IT専門学校(歯科助手実習)
資格・所属学会
エンジェルキッズ竜美丘園 園医
社団法人日本健康寿命を伸ばす会 代表理事
オステムインプラント公認アドバイザー
大阪口腔インプラント研究会25期生
大森塾8期生
臨床歯科麻酔管理指導医
日本有病者歯科医療学会