インプラント治療の豆知識 COLUMN

人工歯根を入れた後の電動歯ブラシの使い方、歯ぐきを守る当て方

人工歯根を入れた後の電動歯ブラシの使い方、歯ぐきを守る当て方

治療段階に応じた電動歯ブラシの再開目安と歯ぐきの守り方


インプラント(人工歯根)を入れたあとに電動歯ブラシを使いはじめてよい時期は、手術のすぐあとか、きずが治る途中か、最終的な人工歯が入ったあとかによって変わります。担当医に確かめてから使いはじめるのが基本です。


この記事では、治療の段階ごとにいつから使いはじめるかの考え方と、歯ぐきをきずつけにくいブラシの当て方、力のかげん、手みがきとの使い分けをまとめました。強く押し当てるくせや少しの出血でどうするか迷ったとき、歯科医院へ相談する目安もあわせて見ていただけます。


この記事の要点まとめ


  • 使いはじめる時期は治療の段階で変わるため、手術のすぐあとやきずが治る途中は手術した場所に当てず、担当医に確かめる。
  • 許可が出たあとは毛先を歯ぐきとの境目に軽く当て、電動歯ブラシと手みがき・フロスなどを場所に合わせて使い分ける。
  • 出血や腫れ、痛みが続くときは歯科医院へ相談し、定期メンテナンスで磨き方やインプラントの周りを見てもらう。

人工歯根の治療段階で変わる電動歯ブラシの再開時期と確かめ方


「人工歯根を入れたあと」といっても、手術を終えたばかりなのか、さいごの被せ物(人工歯)が入ったあとなのかで、口の中のようすは大きくちがいます。いまどの段階にいるかを確かめ、担当医の話にそってお手入れのしかたを選びましょう。


埋入手術の直後から抜糸まで:手術部位には当てず周りの歯を磨く


手術の直後から糸を抜くまでの期間は、手術した場所に電動歯ブラシの毛先や振動を当てないよう控えてください。縫った部分や傷口に細かな振動が伝わると、かさぶたのような治りかけの組織が剥がれ、出血や痛みを招くおそれがあります。


一方で、手術した場所以外の歯は普段どおり清潔に保つことが、口全体の細菌を減らすうえで大切です。この期間は一時的にやわらかめの手用歯ブラシへ切り替え、傷口の近くを避けて丁寧に磨きましょう。


また、血の塊が取れるのを防ぐため、ブクブクと強くうがいをするのも控えます。歯科医院から処方された洗口剤(うがい薬)がある場合は、指示された回数と手順に沿って優しくゆすぐようにしてください。


傷口が治る途中・仮歯の期間:再開は担当医の確認を受けてから


糸を抜いた後や仮歯が入った段階でも、電動歯ブラシの再開は自己判断せず、担当医の確認を受けてからにしましょう。歯ぐきの表面が閉じて見えても、その奥では人工歯根と顎の骨が少しずつ結合していく途中の期間だからです。


再開できる時期が一律の日数で決まらないのは、以下のような条件が一人ひとり異なるためです。


  • 手術した範囲の広さや、きずの閉じぐあい
  • 骨をおぎなう処置(骨造成)を同じ日に行ったかどうか
  • もとの歯ぐきの厚みや硬さ
  • つけている仮歯の形と、とめ方

また、片顎を複数の人工歯根で支える方法などで手術当日から仮歯が入っている場合も、仮歯の周りの磨き方は担当医の説明に沿う必要があります。再開の許可が出た後は、まず手術部位から離れた歯で振動の強さを確かめ、弱めのモードから少しずつ慣らしていくとよいでしょう。


人工歯の装着後:インプラント周囲こそ丁寧に磨く段階へ


最終的な人工歯が装着された後は、天然の歯と同じように電動歯ブラシを日々のケアに取り入れられる段階です。ただし、人工歯根の周りには天然の歯にある歯根膜(歯と骨をつなぎ、細菌の侵入や強い力を和らげる膜)がありません。


そのため、人工歯と歯ぐきの境目にプラーク(歯垢)が残ると、歯周病に似た「インプラント周囲炎」へ進行しやすい特徴があります。最終的な歯が入った時点をゴールと捉えるのではなく、「美味しいものをいつまでも食べたい」という思いを支える土台として、ここからのセルフケアと定期メンテナンスを続けていきましょう。


担当医に電動歯ブラシの再開を確かめるとき伝えたい4つのこと


次の受診時や電話で電動歯ブラシを再開してよいか尋ねるときは、手元の機器や口の様子を具体的に伝えると判断がスムーズになります。あらかじめ以下の4点をメモにまとめておくのがおすすめです。


1. 使っている機器の作動方式とモード:音波式、回転式、超音波式などの種類と、弱モードや歯ぐきケアモードの有無

2. ブラシヘッドの大きさと毛の硬さ:コンパクトサイズか通常サイズか、毛先がやわらかめか普通か

3. 出血や腫れの有無:血がにじむ場所、量、何日ほど続いているか

4. 普段の磨き方の癖:短時間で済ませようとして強く押し当てがち、奥歯に届きにくいなど


ポイント

メモを手元に用意しておけば、お仕事の休憩時間など限られた時間でも状況が伝わりやすくなります。小さな疑問であっても、再開前に遠慮なく歯科医院へお尋ねください。


インプラント周りの歯ぐきを守る電動歯ブラシの当て方と使い分け

インプラント周りの歯ぐきを守る電動歯ブラシの当て方と使い分け

担当医から電動歯ブラシの再開許可が出た後は、歯ぐきに負担をかけない当て方を身につけることが大切です。手磨きの感覚のまま動かすと、かえって汚れが落ちにくくなるため、機器の特性に合わせた使い方を整理しましょう。


「強く押し当てるほど落ちる」は誤解:軽く触れる力加減の目安


電動歯ブラシは毛先のすばやい振動や回転でプラークを落とすしくみです。そのため、毛先が歯の表面に軽くふれ、少しだけしなるくらいの力かげんで十分です。朝のいそがしい時間などに手早くみがこうとして強く押し当てると、毛先が広がって振動が伝わらず、歯ぐきが下がる「歯肉退縮」やきずにつながります。


押し付けすぎを防ぐには、片手の指先で本体を軽くつまむ「ペングリップ(鉛筆持ち)」で持つのが有効です。強い力が加わると音や光で知らせる圧力センサー付きの機種であれば、最初はセンサーが反応する強さを確かめ、それより弱い力で当てる感覚をつかみましょう。


また、電源を入れてから口に入れると歯磨き粉が飛び散りやすいため、研磨剤が少なめの歯磨き粉を少量つけ、歯に毛先を当ててからスイッチを入れます。磨いた後は、歯磨き粉の有効成分を流しすぎないよう、少量の水で1回だけ軽くゆすぐ程度にとどめてください。


歯と歯ぐきの境目への当て方:音波式・回転式で異なる動かし方


インプラント周囲で特に汚れがたまりやすいのは、人工歯と歯ぐきの境目です。この部分に毛先を45度ほどの角度で優しく当て、手をゴシゴシと動かさずに1箇所につき数秒ずつ留めるようにして移動させます。


お持ちの電動歯ブラシの作動方式によって、毛先の動かし方や特徴は以下のように異なります。


作動方式振動・動きの特徴基本の当て方・動かし方
音波式高速の振動で水流を起こす毛先を境目に軽く当て、手を動かさず1〜2歯ずつゆっくり滑らせる
回転式丸いブラシが左右に反復回転して歯垢をかき出す歯を1本ずつ包み込むように当て、隣の歯へ順番に移動させる
超音波式非常に細かい振動で歯垢の付着を弱める(静音性が高い)振動だけでは落ちないため、手磨きのように細かく優しく動かす

どの方式であっても、2分間のタイマー機能などがあれば活用し、前歯ばかりでなく奥歯の頬側・舌側まで時間を均等に配分して当てていきましょう。


ヘッドの大きさ・毛の硬さの選び方と替えブラシを交換するサイン


奥歯のインプラント周囲を磨くには、口の奥まで無理なく届き、小回りが利く小さめのブラシヘッドを選びます。毛の硬さは、歯ぐきへの負担を和らげる「やわらかめ」や、先端が細く加工されたタイプが適しています。


また、毛先が開いたまま使い続けると清掃力が落ちるだけでなく、広がった毛先が歯ぐきをこすって傷つけやすくなります。替えブラシは3ヶ月程度(手用歯ブラシは1ヶ月程度)を目安に交換しましょう。


ただし、期間内であっても「後ろから見て毛先がヘッドからはみ出している」「交換お知らせ用の毛の色が薄くなった」「歯に当てたときの感触が以前と変わった」と感じたら交換のサインです。もし1ヶ月ほどで毛先が開いてしまう場合は、ブラッシング圧が強すぎる合図でもあるため、持ち方と力加減を見直してみてください。


単冠・ブリッジ・連結冠で変わる手磨き・歯間ブラシ・フロスの出番


電動歯ブラシは歯の表面の汚れを手早く落とせますが、歯と歯のあいだや人工歯の根もとのくぼみには毛先が届きません。つけている人工歯の形に合わせて、手みがきや補助の道具を使い分けることが大切です。


  • 単冠(1本だけの人工歯):隣の歯との間にデンタルフロスを通し、根元の側面に沿わせて上下に動かします。
  • ブリッジ(失った歯の前後をつなぐ形):歯がない部分(ダミーの歯)の底面と歯ぐきの間に、先端が硬くなったスーパーフロスや歯間ブラシを通して汚れを拭き取ります。
  • 連結冠(複数の人工歯がつながった形):上からフロスが入らないため、つながっている部分のすぐ下に歯間ブラシを通します。

歯間ブラシは、金属のワイヤーが人工歯根の表面(チタン部分)を傷つけないよう、ウレタン等でコーティングされたものやゴム製を選び、抵抗なくスッと入るサイズを使いましょう。一番奥の歯の裏側など、電動歯ブラシのヘッドが当たりにくい場所だけは、毛束が1つにまとまったワンタフトブラシや手用歯ブラシで補うと磨き残しを減らしやすくなります。


ポイント

電動歯ブラシと手磨きは「どちらか一方」を選ぶのではなく、広い面は電動、細かい隙間や傷口の近くは手磨き・フロスと部位ごとに使い分けることで、歯ぐきを守りながら清掃できます。


出血や腫れがあるときの相談目安と歯科医院での磨き方の確かめ方

出血や腫れがあるときの相談目安と歯科医院での磨き方の確かめ方

手術部位の近くや人工歯の周りを磨いたときに出血があると、そのまま磨き続けてよいのか迷うことがあります。自宅で様子を見てよい場合と、早めに歯科医院へ連絡したい症状の境目を知っておきましょう。


様子を見てよい出血と、次の予約を待たずに連絡したい症状


歯みがき後のうがいで唾液に少し血がにじみ、すぐに止まる少量の出血なら、まずは磨き方を見直しながら様子を見ます。その場所だけ一時的に電動歯ブラシを控え、やわらかい手用歯ブラシで優しくなでるように磨きながら、1〜2日ほど様子を見てください。出血をくり返す場合は、歯科医院へ相談してください。


一方で、次のような症状が見られる場合は、次の予約日を待たずに歯科医院へ連絡する目安となります。


  • 出血が3日以上続く、または以前より血の量が増えてきた
  • 歯ぐきの腫れや赤みが強くなり、ズキズキとした痛みがある
  • 歯ぐきを押すと白や黄色っぽい膿が出る、口臭が急に強くなった
  • 仮歯や人工歯が浮いた感じがする、カチカチと揺れる感覚がある
  • 手術後に熱っぽさや全身のだるさを伴っている

「これくらいの出血で連絡したら大げさに思われないか」とためらう必要はありません。少しの変化のうちに状態を確認しておくことが、結果として人工歯根を長く守ることにつながります。


インプラント周囲炎を防ぐ定期メンテナンスで確かめること


人工歯根の周りに起こるインプラント周囲炎は、初期の段階では痛みがほとんど出ないまま進行し、気づいたときには支えている骨が減ってしまうことがある病気です。自宅での丁寧な歯磨きに加えて、歯科医院での定期メンテナンスを続けることで、自分では見えない変化を早めに把握できます。


定期メンテナンスでは、主に以下のような項目を歯科医師や歯科衛生士が確かめます。


  • インプラント周囲の歯ぐきの色、腫れ、出血の有無、歯周ポケットの深さ
  • 人工歯のネジの緩みや欠け、噛み合わせのバランス
  • 普段の歯磨きでプラークや歯石が残りやすい場所の確認と専用器具でのクリーニング
  • 歯ぎしり・食いしばりによる過度な力や、喫煙習慣・食生活の影響

通院の間隔は、口の中の清掃状態や噛み合わせによって3〜6ヶ月ごとなど一人ひとり異なります。なお、インプラント治療は原則として公的医療保険が使えない自由診療で、事故や病気で顎の骨を広く失った場合など一部に保険が使える例外があります。術後の自費クリーニングや一部のメンテナンスも自由診療です。


一般的な費用相場として、インプラント1本あたりの治療費は30万〜50万円程度、術後のメンテナンスは1回あたり3,000〜10,000円程度とされています。記載した金額は一般的な相場で、当院の費用ではありません。実際の費用は治療内容や医療機関により異なるため、診察のうえでご案内いたします。


また、インプラント治療には、手術にともなう出血や腫れ、痛みがあります。神経や血管をきずつけること、骨とくっつかないこと、手術のあとのインプラント周囲炎などのリスク・副作用もあります。


普段の電動歯ブラシを持参して、歯科衛生士と磨き方を確かめる


愛知県岡崎市の東岡崎ジョイ歯科では、手術から人工歯をつけるまで、その後の定期検診までを通して様子を見られるよう、担当医と担当の歯科衛生士が続けてサポートしています。来院のたびに、はじめから同じ説明をくり返す手間を減らせます。


一般的には、普段使っている電動歯ブラシ(本体と替えブラシ)を持参すると、歯科衛生士と当て方や力加減を確かめやすくなります。鏡で口の中とブラシの当たる位置を見ながら、実際に機器を動かして角度を練習する方法もあります。


人工歯の形に合った歯間ブラシのサイズも、受診のときに相談するとよいでしょう。電動歯ブラシを再開してよいか迷うときや、気になる出血や磨き方の迷いがあるときは、遠慮なく歯科医院へお問い合わせください。


よくある質問


Q. 電動歯ブラシの音波式にはどのような特徴がありますか?


A. 音波式電動歯ブラシは、高速の振動によって毛先を動かし、口の中の水分と混ざり合うことで細かな水流や泡の力を生み出してプラーク(歯垢)を落とす仕組みです。手磨きのようにゴシゴシと手を動かす必要がなく、歯と歯ぐきの境目に毛先を軽く添えるだけで清掃できるため、正しい力加減を守ればインプラント周囲の歯ぐきにも負担をかけにくい特徴があります。


Q. 電動歯ブラシと手磨きは、どちらが良いですか?


A. 一概にどちらが良いとは言い切れず、治療の段階や磨く場所によって使い分けるのが適しています。埋入手術の直後や傷口が治る途中、また一番奥の歯の裏側など細かい部分は、力加減を調整しやすい手用歯ブラシやワンタフトブラシが向いています。一方、最終的な人工歯が入り担当医から許可が出た後は、広い面のプラークを短時間で効率よく落とせる電動歯ブラシを取り入れ、歯と歯の間はフロスや歯間ブラシで補う方法がおすすめです。


Q. インプラントの治療費やメンテナンス費用は医療費控除の対象になりますか?


A. 失った歯の噛む機能を補うためのインプラント治療費や、治療に伴う検査・処置、通院のための公共交通機関の交通費などは、医療費控除の対象となります。一方、予防や定期検診を目的としたメンテナンスやクリーニングの費用は、一般に対象外です。治療に伴う処置として行われたかどうかで扱いが分かれます。


1年間(1月1日〜12月31日)に、ご自身と家計が同じご家族がはらった医療費の合計が10万円をこえると、確定申告をして納めた税金の一部がもどります。所得の合計が200万円より少ない方は、その5%をこえたときが目安です。所得税がもどったり、次の年の住民税が少なくなったりするため、領収書はとっておき、くわしい計算のしかたは国税庁の案内や税務署で確かめてください。


Q. 出血や痛みで急に診てもらう場合、応急処置の費用はどのくらいかかりますか?


A. 一般的な歯科医院で急な痛みや出血に対する応急処置(洗浄、消毒、お薬の処方や噛み合わせの確認など)を受ける場合、保険適用となる処置であれば自己負担額(3割負担)で1,500〜4,000円程度、レントゲン撮影などを伴う場合は3,000〜5,000円程度が一般的な相場です。ただし、自由診療であるインプラント部位の処置内容や各医療機関の取り決めによって費用体系は異なり、上記は当院の費用ではありません。受診の前に症状を伝え、費用の目安を医院へ確かめておくと、当日の準備がしやすくなります。


荻野 一樹

歯科医師


東岡崎ジョイ歯科

理事長

荻野 一樹

▶ 監修者プロフィール

経歴
愛知県豊田市出身
愛知県立豊田西高校 卒業
国立鹿児島大学歯学部歯学科 卒業
医療法人小室会 小室歯科ステーション診療所 勤務
東岡崎ジョイ歯科開院
医療法人JOY 設立
株式会社ジョイ SONA DENTAL LABORATORY 設立
実習受け入れ実績:名古屋医療秘書福祉&IT専門学校(歯科助手実習)
資格・所属学会
エンジェルキッズ竜美丘園 園医
社団法人日本健康寿命を伸ばす会 代表理事
オステムインプラント公認アドバイザー
大阪口腔インプラント研究会25期生
大森塾8期生
臨床歯科麻酔管理指導医
日本有病者歯科医療学会