
「よく噛むこと」が脳に届けるもの
食事中に親が噛みづらそうにしている。自分自身も奥歯のかみ合わせが以前と違う気がする——そんなとき、「噛む力の衰えは脳にも関わるのだろうか」という疑問が頭をよぎります。咀嚼は食べ物を砕くだけの動作ではなく、脳へ絶えず刺激を送り続ける運動でもあります。この記事では、咀嚼と脳の関係を医学的な視点から整理し、日常でできる工夫や歯科医院へ相談する目安まで、将来の健康維持に向けて今日から始められる内容を分かりやすくまとめました。
この記事の要点まとめ
- 噛む動作は脳へ感覚情報を届け、認知機能の維持に関わる可能性が研究で示唆されています
- 硬い食品への偏りではなく、無理のない咀嚼回数の工夫が噛む力の維持につながります
- 噛み合わせの違和感や歯の喪失は放置せず、早めに歯科医院へ相談することが勧められます
咀嚼と脳の関係とは?しっかり噛むことが認知機能の維持につながる理由
「噛む」という何気ない動作は、顎の筋肉、舌、頬、そして歯の周囲にある歯根膜という組織が連動する、かなり複雑な運動です。この一連の動きは脳からの指令で制御され、同時に感覚情報として脳へ返っていきます。つまり咀嚼は、脳と口の間を行き来する往復のやり取りだと考えられています。
噛む刺激が脳の血流量や記憶・学習機能へ与える影響
噛むたびに歯根膜のセンサーが圧力を捉え、その信号が三叉神経を通って脳へ届きます。ファンクショナルMRI(磁気共鳴画像法)を用いた研究では、咀嚼中に大脳皮質の運動野や感覚野、さらに判断や意欲に関わる前頭前野、記憶の形成に関与する海馬周辺などで活動の高まりが観察されました。咀嚼運動は皮質からの随意的な指令と、脳幹にあるリズム生成の仕組み、この2つの司令塔によって成り立っていると考えられています。単純な繰り返し運動に見えて、実は脳の広い範囲が関わっているわけです。
顎を動かす動作は頭部の血流にも影響し、脳への血液供給を一時的に増やすとも報告されています。噛む刺激そのものが脳の活動を後押しする要素のひとつと考えられており、その積み重ねが認知機能の維持に関わる可能性が指摘されています1。もっとも、咀嚼だけで認知機能の低下を防げるわけではありません。運動、睡眠、社会参加なども含めた生活全体の要素のひとつとして捉えたいところです2。
歯の喪失や噛み合わせの悪化が引き起こすリスク
歯を失った状態が続くと、その部分から脳へ届く感覚情報は減っていきます。残った歯だけで噛もうとすれば咬合力(噛む力)のバランスは崩れやすく、片側だけで噛む癖がついたり、噛む回数そのものが減ったりすることがあります。
さらに見過ごせないのが食生活の変化です。噛みにくくなると自然とやわらかい食品に偏り、食物繊維やたんぱく質が不足しがちになります。栄養バランスの乱れは全身の状態に影響しますし、外出や人との会食が減れば刺激の少ない生活にもつながっていく。歯の喪失、咀嚼機能の低下、栄養や活動量の変化——これらは連鎖しやすく、複数の観察研究で残存歯数の少なさと認知機能低下との関連が指摘されてきました。関連が示されたからといって因果関係が明らかになったわけではありませんが、噛める環境を保つことは、加齢に伴う変化を気にする世代にとって取り組む価値のある課題と言えるでしょう。
ライフステージごとに考える咀嚼機能と脳の活性化
咀嚼と脳の関わりは、高齢期だけの話ではありません。成長期のお子さんにとって、よく噛む習慣は顎の発育や歯並びの形成に関わりますし、食事に集中する時間そのものが感覚の発達を促すと考えられています。成人期では、ガムを噛むことで覚醒度や注意力が高まったとする報告もあり、仕事や勉強の合間に取り入れている方もいます。そして50代以降は、これまで保ってきた咀嚼機能をどう守るかという段階へ入ります。
ご自身の奥歯の違和感と、親御さんの噛みづらさ。この二つが同時に気になり始めた時期は、家族全体でお口の健康を見直すきっかけになります。年代によって重点は変わっても、「噛める状態を保つ」という目標はどのライフステージにも共通しています。
【よくある誤解】固い食べ物なら良い?噛む力を保つ食事の工夫とセルフチェック

「噛む回数を増やそう」と考えたとき、多くの方が真っ先に思い浮かべるのが硬い食品です。ただ、その発想には少し注意が必要になります。
「固いものを無理に噛む」ことの誤解と注意すべき点
極端に硬いせんべいや氷、乾物などを無理に噛むと、歯にひびが入ったり、詰め物が外れたり、顎関節に負担がかかったりすることがあります。治療済みの歯が多い方、歯周組織が弱っている方は、とくに慎重な判断が求められます。むし歯や歯周病がある状態で硬いものを噛み続ければ、かえって歯を傷める方向へ働くことも考えられます3。
大切なのは硬さそのものではなく、「一口あたりの咀嚼回数」を無理なく増やすこと。厚生労働省の健康情報でも、ゆっくりよく噛んで食べる習慣は消化や満腹感の面から紹介されています1。歯や顎に負担をかけずに噛む回数を伸ばす——これが現実的な方針になります。
日常の食事で自然に咀嚼回数を増やすメニューや調理のポイント
特別な食材を揃える必要はありません。日々の調理を少し変えるだけで、噛む回数は自然と増えていきます。
- 食材を大きめに切る:根菜やきのこ、肉類を一口大より少し大きめにすると、それだけで咀嚼回数が伸びます
- 加熱時間を短めに:野菜は茹ですぎず、歯ごたえを残す程度にとどめる
- 食物繊維の多い食材を組み合わせる:ごぼう、れんこん、たけのこ、海藻類、豆類など
- 主食を工夫する:白米に雑穀を混ぜる、パンはやわらかい菓子パンより噛み応えのある種類を選ぶ
- 汁物で流し込まない:食事中の水分は、口の中の食べ物を飲み込んでから
手軽なところでは、無糖のガムを1回5〜10分程度、食後や集中したいときに噛む習慣も挙げられます。顎に痛みや違和感が出たときは中止し、歯科医院で相談してください。
自宅で簡単にできる「噛む力」と「お口の機能」のセルフチェック
次の項目を、ご自身と親御さんの両方で確認してみてください。
- 左右どちらか一方でばかり噛んでいないか
- 以前は食べられた食品(りんご、たくあん、肉類など)が食べにくくなっていないか
- 食事中にむせる、こぼす、飲み込みにくいと感じることが増えていないか
- 食事の時間が以前より極端に短く、あるいは長くなっていないか
- 噛むときに顎から音が鳴る、痛みが出ることがあるか
- 口の中が乾きやすい、食べ物が歯にはさまりやすくなったと感じるか
複数当てはまるようなら、咀嚼機能に変化が出ている可能性があります。あくまで目安であって診断ではありませんので、気になる項目があれば歯科医院で状態を確認してもらうと、次の一手が見えてきます。
噛み合わせの違和感や歯の喪失を放置しないための歯科受診の目安
セルフチェックで気になる点が見つかったら、次に考えたいのが「いつ、どこに相談するか」です。噛みづらさはじわじわ進むため、本人が気づきにくいという特徴があります。
入れ歯やインプラント等による咀嚼機能の回復と期待できる変化
すでに歯を失っている場合、その部分を補う方法には入れ歯、ブリッジ、インプラントなどがあります。いずれも失われた歯の機能を補い、噛む面積とバランスを整えることを目的とした治療です。噛む環境が整うことで、食べられる食品の幅や栄養面、生活のしやすさに変化が生まれる可能性がありますが、その程度には個人差があります。
また、装置を入れれば自動的に良い状態が続くわけではありません。入れ歯は顎の形の変化に合わせた調整が必要ですし、インプラントは埋入後の清掃と定期的なメンテナンスが治療の一部と言えるほど重要になります。外科処置を伴う治療ほど、術後の管理体制まで含めて検討することが欠かせません2。治療法の選択は、残っている歯の状態、顎の骨の量、全身の健康状態、通院できる頻度などを総合して判断していきます。なお、インプラントは自由診療にあたり、費用や治療期間、起こりうるリスクについて事前の説明を受けたうえでご検討ください。
自分やご家族の噛みづらさを感じた際に相談するポイント
受診の際は、次のような情報を伝えるとスムーズです。
- いつ頃から噛みづらさを感じ始めたか
- どの部位が気になるか(左右どちら、奥歯か前歯か)
- 具体的に食べにくくなった食品
- 痛み、しみる、音が鳴るなどの症状の有無
- 服用中の薬や持病の有無
噛み合わせの違和感の背景には、むし歯や歯周病、詰め物の劣化、歯ぎしりなど、複数の要因が隠れていることもあります3。原因を絞り込むため、レントゲンや歯科用CTによる検査、口腔内スキャナーでの記録などを組み合わせて確認していきます。
東岡崎ジョイ歯科における噛み合わせとお口の健康相談
当院では、完全担当医制により一人ひとりに寄り添った治療計画を立案しています。診てもらう歯科医師によって説明が変わる、同じ話を何度も繰り返す、そうした負担が生じないよう治療に一貫性を持たせている点が特徴です。口腔外科、矯正、インプラントといった分野の認定医(各学会・団体の認定資格)が在籍しており、専門的な知見が求められる内容にも院内で連携しながら対応しています。
設備面では歯科用CT、口腔内スキャナー(iTero)、マイクロスコープを導入し、噛み合わせや歯の状態を細かく確認できる体制を整えました。高圧蒸気滅菌器や医療用空気清浄機、口腔外バキュームによる衛生管理にも力を入れています。
理事長の荻野は「美味しいものをいつまでも食べたい」という願いを支えることを診療方針に掲げています。親御さんの通院に付き添う方も、ご自身の違和感が気になる方も、まずはご相談ください。診療時間は平日9:00〜12:30/14:00〜18:30、土日は9:00〜14:30、祝日は診療を行う場合があります。ご来院前に診療日をご確認ください。
よくある質問
Q1. 咀嚼と脳の関係は具体的にどうなっていますか?
A. 噛むときに歯根膜や顎の筋肉から生じた感覚情報が神経を通って脳へ伝わり、運動野や感覚野、前頭前野などの活動が高まることが画像研究で示されています。顎を動かす動作は頭部の血流にも影響すると報告されています。ただし咀嚼だけで認知機能が決まるわけではありませんので、生活習慣全体の一要素として捉えてください。
Q2. 咀嚼をすると脳のどの部分が活性化されますか?
A. ファンクショナルMRIを用いた研究では、大脳皮質の運動野・感覚野に加え、判断や意欲に関わる前頭前野、記憶に関与する海馬周辺などで活動の変化が報告されています。咀嚼運動は大脳皮質からの指令と脳幹のリズム生成機構、この2つの経路で制御されていると考えられています。
Q3. 歯を失ったままにしていると認知機能に影響するのでしょうか?
A. 残存歯数と認知機能低下との関連を示す観察研究は複数ありますが、あくまで関連の報告であり、因果関係が明らかになったものではありません。噛みにくさが栄養の偏りや活動量の低下につながる点も含めて考える必要があります。歯を失った部分はそのままにせず、補う方法を歯科医院でご相談ください。
Q4. 入れ歯やインプラントで噛む力を補えば、脳への刺激も戻りますか?
A. 噛む面積やバランスが整うことで咀嚼機能の回復を目指しますが、脳へどの程度影響するかを個別にお約束することはできません。装置を入れた後の調整とメンテナンスを続けることが、機能を保つうえで重要になります。
Q5. ガムを噛むのはどのくらいが目安ですか?
A. 一般的には無糖のものを1回5〜10分程度、食後や集中したい場面で取り入れる方が多いようです。長時間噛み続けると顎に負担がかかる場合があるため、痛みや疲労を感じたら中止してください。顎関節に不調がある方は、事前に歯科医院へご相談ください。
参考文献
1. 厚生労働省「健康づくりサポートネット(疾病・健康に関する情報)」 https://kennet.mhlw.go.jp/information/
2. 厚生労働省(政策・健康情報の入口) https://www.mhlw.go.jp/
3. 日本齲蝕学会 https://www.jacd.jp/
愛知県立豊田西高校 卒業
国立鹿児島大学歯学部歯学科 卒業
医療法人小室会 小室歯科ステーション診療所 勤務
東岡崎ジョイ歯科開院
医療法人JOY 設立
株式会社ジョイ SONA DENTAL LABORATORY 設立
実習受け入れ実績:名古屋医療秘書福祉&IT専門学校(歯科助手実習)
社団法人日本健康寿命を伸ばす会 代表理事
オステムインプラント公認アドバイザー
大阪口腔インプラント研究会25期生
大森塾8期生
臨床歯科麻酔管理指導医
日本有病者歯科医療学会
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